ケアハラスメント(ケアハラ)とは、働きながら家族の介護を行う労働者に対して、介護に関する制度利用を妨害したり、嫌がらせを行うなどの行為のことを指します。
また、身体的・精神的暴力、性的な嫌がらせなどを、老人ホームなどの介護施設に従事する介護スタッフや、在宅ヘルパーに行うこともケアハラスメントと呼ばれています。
ケアハラスメントは、介護が必要になる高齢者が増えるにつれて増加する傾向にあります。
これから迎える超高齢化社会では、避けられない問題となることが予想されます。
こちらの記事では、ケアハラスメントとはどのようなものなのか、その防止規定、事例について触れながら、対処方法や解決方法について解説します。
ケアハラスメントとは?
ケアハラスメント(ケアハラ)とは、働きながら家族の介護を行う労働者に対して、介護に関する制度利用を妨害したり、嫌がらせを行うなどの行為のことを指します。
ケアハラスメントは、別名「介護ハラスメント」とも呼ばれています。
ケアハラスメントの定義について、厚生労働省では明確に定義されてはいません。
ですが、上記に記載した通り、ケアハラスメントというと大きく2つのパターンで解釈されます。
- 家族や親戚などの身内で、働きながら介護を行うことを余儀なくされた人に対して、介護休暇などの制度を利用することを妨害しようとしたり、文句や暴言などを言ったりするなどの嫌がらせ行為のこと
- 介護施設の職員であるケアワーカーや、訪問介護を行う在宅ヘルパーなどの介護従事者に対して、身体的・精神的暴力をふるったり、性的な嫌がらせ行為のこと
こういった介護を担う人に対しての嫌がらせ行為は、シルバーハラスメントと同じく、高齢化に伴って増加の一途を辿っています。
今後、さらに高齢化が進み、超高齢化社会を迎えると考えられる現代にとって、シルハラやケアハラは避けられない問題といえます。
そんなケアハラスメントの防止規定とは、どのようなものでしょうか。
ケアハラスメントの防止規定とは?
ケアハラスメントの防止規定とは、どのようなものかみていきたいと思います。
2017年に育児介護休業法が改正されました。
それにより、育児に関するマタハラやパタハラ、介護に関するケアハラを防止するための措置を講ずることが義務付けられました。
厚生労働省では、育児・介護休業等ハラスメント防止指針で事業主に講ずるように義務付けている防止措置は以下の通りです。
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために講ずべき事項
- 事業者の方針等の明確化およびその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
○併せて講ずべき措置
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること
- 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由と
して不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者
に周知・啓発すること(厚生労働省:職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です。より一部抜粋)
そのため、これらの防止措置を行うことができていない場合は法律違反となります。
では、そんなケアハラスメントの事例にはどのようなものがあるのでしょうか。
ケアハラスメントの事例
ここでは、ケアハラスメントの事例について紹介します。
一般企業(労働者)の場合と、介護施設等(介護従事者)の場合に2つに分けて、ご紹介します。
一般企業(労働者)の場合
介護休暇を理由に、不当な配置転換や措置があった
- 出世コースから外された
- 重要なプロジェクトから外された
- 課長から社員への降格を命じられた
- 現在の部署から別の部署に配属されることになった
- 退職を勧められた、退職するよう強制された
家族や親族などの身内間で介護が必要になった。
それにより、介護休暇を申請したが、申請したことを理由として、上記のような不当な配置転換や措置が行われた場合。
これらの行為はケアハラスメントに該当します。
周囲から文句・暴言を言われたり、介護休暇の取得を妨害された
- 時短勤務で早く帰宅することに対して、「介護を言い訳にして早く帰れていいわね」と嫌味を言われた
- 介護休暇を申請したところ、上司から「誰がお前の仕事をカバーすると思ってるんだ!」と怒鳴られた
- 仕事をフォローしてもらっている同僚から、「こんな風に業務量を増やされて、ほんといい迷惑だよ」と文句を言われた
- 介護休暇の申請を希望したにも関わらず、「甘えたことを言うな!そんなん仕事しながらできるだろう!」と怒鳴りつけ、現状よりもさらに業務量を増やされた
上記のように、介護休暇を申請・取得した人に対して、文句や暴言を吐く。
必要以上の業務量を押し付けたりして、介護休暇の取得を妨害するような行為は、ケアハラスメントに該当します。
介護施設等(介護従事者)の場合
- 高齢者の機嫌を損ねると、叩いたり蹴られたりなどの暴力を受ける
- 何か気に食わないことがあると、それを持ち出して「これだからあなたはダメなのよ」「使えないわね」などと文句を言われる
- 高齢者の家族から、介護施設で医療行為も行うよう強要される
- 高齢者の家族から威圧的な態度を取られたり、無理難題を押し付けられる
上記のような文句や暴言、暴力などは、高齢者の方に何かしらの疾患などがあって行われる場合もあります。
ですが、ここでは主に、それらの疾患などが見られない高齢者からの暴言・暴力行為がハラスメントに該当します。
介護施設では、介護従事者が顧客よりも年齢が下回るため、どうしても高齢者の方が立場が上になりがちです。
そのため、このようなハラスメントが起こりやすい状況にあります。
また、高齢者の家族からも威圧的な態度を取られたり、医療行為を強要するなどの無理難題を押し付けられることも多いようです。
では、ケアハラスメントの加害者にならないためにはどうすればいいのか、その対処方法についてみていきたいと思います。
ケアハラスメントの対処方法
ここでは、主に職場に焦点を当てて、ケアハラスメントの加害者にならないための対処方法についてご紹介します。
介護を理由とした配置転換や措置は違法であることを自覚する
家族や親族などの介護を理由に、制度を利用して介護休暇を取得する人もいるでしょう。
そのような人に対して、介護休暇取得を妨害するために配置転換を行うこと。
または、退職に追い込むような不当な行為は、すべて育児介護休業法に違反する行為とされています。
また、配置転換や退職を命じる立場にない場合であっても、業務量を増やしてその人に押し付けようとする行為。
暴言を浴びせるなど、制度利用を妨害するような行為を行った場合は、法令違反として扱われる可能性が高くなります。
それを念頭に置いて、法令違反にならないように、不当な行為をしないように意識して行動することが重要です。
助け合いの精神を持つ
育児介護休業法の第十二条では、下記のように記載されています。
第十二条 事業主は、労働者からの介護休業申出があったときは、当該介護休業申出を拒むことができない。
(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)
このように、労働者から介護休業の申出があった場合には、企業側にはその申出を断る権利はありません。
そのため、こういった休暇を取得する権利は労働者にはあるわけですから、困った時にはお互いに助け合うことが必須になります。
人手が足りないことによって、業務量が増えたり、残業する機会が増えてしまうなどの負担を、強いることになった場合もあるかもしれません。
その場合であっても、休暇を取得している人に負担を強いるのは違います。
その制度を取得しても業務を回せるようにならなければなりません。
会社の仕組みを変えるよう、訴える方に力を注ぎましょう。
では、ケアハラスメントはどうすればなくなるのでしょうか、その解決方法についてみていきましょう。
ケアハラスメントの解決方法
ここでは、ケアハラスメントをなくすための、個人でできる解決方法についてご紹介します。
ハラスメントを未然に防ぐためにできること
働きながら介護をすることになった人におすすめなのが、アウトソーシング(外部委託)です。
金銭面で、どうしても工面できない場合などは厳しいかもしれません。
ですが、働きながら介護を行うことになった際には、心身面での負担は相当なものになります。
また、職場の人も穴が開いた分の仕事を負担してもらうことになるため、ハラスメントが起こりやすい状態であるともいえます。
そのため、出来る限り、訪問介護などで介護ヘルパーを頼んだり、老人ホームなどの介護施設に入居するなど、方法を考えましょう。
外部委託の力を借りて行うことで、負担を減らすことが重要です。
介護保険や給付が受けられる場合もあります
家族または親戚などの身内が、高齢・病気・怪我などの理由で介護が必要になった場合には、各市町村で介護保険の手続きを行いましょう。
また、場合によっては、介護休業給付が受けられる場合があるため、それが受けられるかどうかを事前に確認しておくことが重要です。
※休業期間中に労働賃金が支給される場合は支給額が変動します。
ハラスメントをなくすための解決策
社内の相談窓口に相談する
ケアハラスメントを会社が認識していたのか、認識していない中で行われていたのか、それ次第で対応は大きく異なります。
そのため、まずはケアハラスメントが社内で行われているという事実を、社内の相談窓口で相談することで、会社に周知することが重要となります。
また、相談する前に、あらかじめハラスメントの記録(日時やハラスメントの内容などをメモか日記に記す、ラインやメールなどを残しておくこと。
ICレコーダーなどで言動を録音する)を取っておくと、証拠として提出できるため、迅速に対応してもらいやすくなります。
社内の相談窓口に相談しても対応してもらえなかった、または改善が見込めなかった場合には、社外の相談窓口に相談しましょう。
ケアハラスメントの防止措置を行うことは義務付けられています。
なので、それに対してしっかりと対処を行わなかった場合は、法律違反になる可能性が非常に高いです。
適切な対応をとってもらえない場合は、ハラスメントの事実を労働基準監督署に申告することができます。
上記で挙げたような証拠を揃えて、会社が所属している都道府県の労働基準監督署に相談に行くことも一つの手段といえます。