コミュニケーションハラスメントとは、コミュニケーション障害を持つ人に、コミュニケーションを強要する行為のことを指します。
一概にコミュニケーション障害といっても、いろいろな種類があります。
ただ単にコミュニケーションを行うことが苦手な人もいるでしょう。
しかし、吃音などの特性によってコミュニケーションを行うことが困難な人もおり、様々な要因があります。
それを考慮せずに、コミュニケーションができていないことを追及したり、コミュニケーションを強要するような行為をする人もいます。
そうすると、相手にハラスメントだと受け取られる可能性が高くなります。
こういったコミュニケーションに関するハラスメント被害を防止するためには、どうしたらよいのでしょうか。
こちらの記事では、コミュニケーションハラスメントとはどのようなものなのか、その事例、対処方法や解決方法について解説します。
コミュニケーションハラスメントとは?
コミュニケーションハラスメントとは、コミュニケーション障害を持つ人に、コミュニケーションを強要する行為のことを指します。
コミュニケーション障害を持つ人に、「全然喋らないよね」「なんでそんなに大人しいの?」と聞く。
「もっと大きな声で話しなよ!」などとコミュニケーションを強要したりする嫌がらせ行為のことをいいます。
コミュニケーションハラスメントについて詳しく言及する前に、コミュニケーション障害とは何かについて、解説します。
コミュニケーション障害とは?
コミュニケーション障害とは、大きく2つに分類されます。
1つ目は、コミュニケーションが苦手であることを表す俗称としての場合です。
例えば、
- 人と話すことが苦手
- 場の空気を読むことが苦手
- 相手の調子に合わせて話すことができず、一方的に話してしまう
- 思ったことをそのまま伝えてしまうなど、相手のことを考えた返答ができない
- 感情をすぐ露わにするため、トラブルが絶えない
などの特徴を持つ人のことを指しています。
ただ単に、性格的な面において、コミュニケーションが苦手な人もいます。
しかし、その背景に、発達障害や不安障害、パーソナリティ障害などの別の疾患が隠れていることも少なくありません。
2つ目は、医学的な診断名としての場合です。
コミュニケーション障害と診断されるものとしては、以下の5つがあります。
■言語障害
言語の習得や使用に持続的な困難があり、使用できる語彙や構文の種類が限定されている。
文章を作成することが困難なために、うまく話すことができないなどの制限がある状態のことを指す。
■語音障害
身体的および神経学的な障害は認められないものの、言葉を明瞭に発することが困難である状態が続いている。
会話による意思疎通が制限されてしまう状態。
■小児期発症流暢障害(吃音)
音声や音節が頻繁に繰り返されたり、延長されたり、途切れたりするために、スムーズな会話が難しい状態。
■社会的コミュニケーション障害
言葉、表情、姿勢、声色などの「非言語的コミュニケーション」に当たる部分の読み取りが難しい。
状況に応じた使い分けができず、空気を読んで行動することや、言い回しを考えて発言することが困難な状態。
上記の他にも、コミュニケーション障害の症状はあります。
しかし、特定の疾病に分類することが困難な場合のコミュニケーション障害も存在するのが現状です。
コミュニケーションハラスメントは増加の一途を辿っている
コミュニケーションハラスメントが広まったきっかけは、2015年8月29日に投稿されたツイートが始まりだったそうです。
「コミュ障に対する『大人しいよね』『なんか喋ってよ』といったコミュハラ(コミュニケーションハラスメント)の被害を広めてゆきたい。これはハゲている人に『ハゲてるね』『毛生やしてよ』と言うようなもので、コミュニケーションモンスターは、これがいかに酷い言動であるか自覚すべきである」
このツイートに対して、世間の反応は強い共感を得たのか、投稿されて1週間ほどで約1万6000リツイートされ、お気に入りも1万件以上と話題になりました。
2015年9月20日放送の「ワイドナB面」(フジテレビ系)では、視聴者から「コミュハラ、どう思いますか?」という意見が寄せられました。
それに対し、タレントのヒロミさんやダウンタウンの松本さんが、何でも相手が不快だと感じればハラスメントだと批判されてしまうと答えています。
上記のように、現代の風潮を語っていたのも有名ですよね。
ハラスメントの判断基準は、受け手がどのように感じたのかに基づいて判断されます。
なので、誰かがハラスメントだと訴えれば、ハラスメントになりうるという面があります。
そうすると、コミュニケーションハラスメントは、どこからがハラスメントに該当するのか、判断が難しい問題だとされています。
では、そんなコミュニケーションハラスメントの事例とはどのようなものなのでしょうか。
コミュニケーションハラスメントの事例
ここでは、コミュニケーションハラスメントの事例についてご紹介します。
今回は、「会話が苦手で、寡黙な人」と「会話は可能だが、つじつまが合わない人」に分けて、ご紹介します。
話すのが苦手で、寡黙になりがちな場合
- いつも静かな人に対して、「大人しいよね」「いつも静かだよね」と発言する
- あまり発言していない人に対して、「なんで喋らないの?」と追及する
- 「人といるの嫌いなの?」「話すのが苦手なの?」と追及する
- あまり発言していない人に対して、「もっと喋ってよ」と要求する
- 「さっさと喋れよ!」と無理に話すように捲くし立てたり、煽ったりする
- あいつは何も話さないから、無視をするように周囲に言いふらす
上記のように、無理にコミュニケーションを取らせようとする行為や、うまく話せないことを理由に仲間外れにしたりするなどのいじめ行為があります。
これらは、端から見てもれっきとした嫌がらせ行為です。
しかし、コミュニケーションが苦手な人に対して、「大人しいよね」と言うだけでも、傷ついてしまった人もいます。
そのような場合であっても、ハラスメントだと受け取られてしまうケースが多いようです。
ハラスメントの判断基準は受け手によって異なるため、一概には言えませんが、こういった発言は控えた方がベターだといえます。
話すのは話すが、つじつまが合わない場合
- うまく話せず、どもってしまう人に対して、「もっとはっきり話して!」と要求する
- 見当違いの発言が多いので、「もっと場の空気を読んで発言してよ」と怒る
- 人の話を無視して話し続けるので、「ちゃんと聞いてないでしょ、ふざけないで!」と怒る
- 話はしているのだが、どこか噛み合わないので、「こいつとは話しても無駄だ」と言い切る
- うまく話せないことを理由に、仲間外れにされたり、馬鹿にされたりする
上記のように、順序立てて話すことが苦手だったり、相手の表情や動作などを読み取って発言することが苦手な人もいます。
頭ごなしに怒鳴ったり馬鹿にする行為、もしくは、それを理由にいじめられる場合などがハラスメントに該当します。
しかし、判断が難しい点もあります。
それが、何度も同じ間違いを繰り返していたり、注意をしても現状が改善しなかった場合です。
それに対して叱ったことが、ハラスメントに該当するのか否かについてです。
この場合には、完全に受け手の判断次第になってしまいます。
一概にすべてがハラスメントだと言い切ることは難しいです。
しかし、その行為が誰の目から見ても過剰であると判断できる場合には、ハラスメントだと判断して良いでしょう。
では、コミュニケーションハラスメントはどのように対応すればいいのか、対処方法や解決方法についてみていきたいと思います。
コミュニケーションハラスメントの対処法
ここでは、コミュニケーションハラスメントの加害者にならないための対処法についてご紹介します。
コミュニケーションが苦手な理由を無理に聞き出さない
コミュニケーション障害を持つ人は、2つに別れます。
単に性格的な面で人とコミュニケーションをとることが苦手な場合と、医学的に証明されている疾病を持っているが故に苦手な場合です。
コミュニケーションが苦手といっても、一言では片づけられない理由を持っている人もいます。
むやみやたらに、「なんでそんなに大人しいの?」「全然、喋らないね」「もっと話してよ」と執拗に言うと、相手は不快感を抱いてしまいます。
そのため、気になったとしても、執拗にコミュニケーションが苦手な理由を聞き出すことは控えるようにしましょう。
コミュニケーションを強要しない
コミュニケーションが苦手な人にとっては、コミュニケーションを強要されることほど苦痛に感じることはありません。
コミュニケーションが円滑にとれる人からすると想像するのは難しいかもしれません。
では、もし、常に英語で会話するように強要されるとどうでしょうか。
英会話が得意で、ネイティブ並みに話せる人にとっては苦痛でも何でもないでしょう。
しかし、英語に不慣れで、YesかNoくらいしかわからない人にとっては、苦痛以外の何物でもありませんよね。
誰しも、苦手なことはあります。
それを認めて、受け止めた上で、お互いが苦痛を感じない条件でコミュニケーションをとる方法を考えるようにすると、ハラスメントを防ぐことに繋がります。
勝手なものさしで人を見て判断しない
自分から見た相手の印象というものは、客観的なものに過ぎません。
そのため、客観的に見て、感じが悪い人だなと感じたら、悪い人にしか映らなくなってしまいます。
加えて、変な人だと感じたら、すごく警戒して見るようになりますよね。
しかし、内面を知ると、意外と普通の人だったり、といったこともたくさんあります。
自分の中にあるものさしだけで相手を見ると、本質的な部分が見えなくなる場合も多くあります。
ですので、相手のことを知ろうとせずに勝手に決めつけて判断することは避けるようにましょう。
相手をよく観察し、どんな人であるのかを理解しようとする
上記の内容と似ていますが、自分の中のものさしだけで相手を見ると、その人の内面的な部分は見えなくなる事が非常に多いです。
そのため、まずは、相手がどんな人であるのかを把握するために、相手のことをよく観察して、相手のことを理解しようとすることが重要です。
それを心がけることで、相手に合った声かけや対応を考えることができるようになります。
それを繰り返すことで、お互いに気持ちよく意思疎通をするための方法を見出すことができるため、ハラスメントの防止に繋がります。
コミュニケーションハラスメントの解決方法
ここでは、コミュニケーションハラスメントの解決策についてご紹介します。
コミュニケーション障害を持つ人への対応方法
特性に合わせた対応を行う
- 話すことは可能だが、言葉をまとめるのが苦手で、ゆっくりとしか話せない
- 発音が苦手で、うまく言葉として発することができない
- どもってしまったり、同じ単語を繰り返してしまうので、言葉としてうまく表現できない
- 長文で話をされると理解が追い付かず、返答に困ってしまう
- 空気を読むことができず、場に合わせた会話ができない
上記のように、コミュニケーション障害といっても、人によって様々な特性が見られます。
まずは、コミュニケーションにおいて相手がどんなことを苦手としているのかを聞き取って、理解しようとすることが重要です。
また、それを克服しようとしても特性上できない場合も多く、無理に克服させようとすると、かえって悪化してしまう可能性もあります。
そのため、ゆっくりとしか話せないのであれば、相手のペースに合わせて話すことが重要です。
また、長文だと理解できない場合は、短文で簡潔に伝えましょう。
このように、相手の特性に合わせた対応を行う方向で、サポートするように心がけると円滑な意思疎通ができるようになります。
面と向かって否定しない
コミュニケーション障害を抱えている人にとって、直接的な表現で否定されると、全人格を否定されたように感じるほど、傷つく人もいます。
こういった特性を持つ人は、自分の特性を認めたくない、もしくは、なんでこんなこともできないんだろうと自分を責めてしまうことが多いです。
そして、自信を持てない傾向にあります。
そのため、相手からどう思われているのかということを常に気にしています。
敏感に感じ取ろうとするあまりに、少しでも否定されるとこちらが思っている以上に傷ついてしまうことも少なくありません。
相手の言動で困った場合は、感情に任せて指摘するのではなく、その理由をわかりやすく、冷静に伝えるようにしましょう。
具体的に、簡潔かつ明確に伝える
場の空気を読むことが苦手だったり、比喩的な表現を理解することが難しい場合の人には、内容をしっかりと考慮して伝える必要があります。
例えば、飲み会などで上司が得意げに自分の自慢話をしていた場合があるとします。
女性社員3人のうちの2人は愛想よく話を聞いているのに対して、1人がまったく関心のないような態度で聞いています。
それを見た2人が、その女性社員に「ちょっと、上司の話なんだからあの態度はダメでしょ。社会人としての常識だよ。」と言うかもしれません。
しかし、コミュニケーション障害を抱えていた場合には、それがどうしてダメなのか理解できないですよね。
これが、「上司が機嫌よく話をしている時は、相手の話を否定せずにほめて、笑顔で相槌を打ちながら話をすると良いんだよ。」と伝えられるとどうでしょうか。
具体的に、どうしたらよいのかをはっきりと伝えられると、相手も「あぁ、そうしたらよいのか」と理解することができます。
そのため、一言で注意するといっても、具体的に、簡潔かつ明確にどうしたらよいのかをまとめて話をすることが重要です。
ハラスメントに該当する行為を見て見ぬふりをしない
コミュニケーションハラスメントに限ったわけではありませんが、自分自身で言葉として伝えることが困難な場合も多々あると思います。
その場合、どのように伝えたらハラスメント行為をやめてもらえるのか、わからない人も多いです。そして、一人で抱え込んでしまうことも少なくありません。
客観的に見て、その人が嫌がっているなと感じる場面があるでしょう。
また、その行為がハラスメントに該当するといえるような行為であった場合には、周囲の人が勇気を持って指摘することが重要です。
直接注意をすることが難しいケースもあるかもしれません。
その場合は、こういった事案が社内で起こっているなど、現状を社内の相談窓口に相談しましょう。
そうして、対応してもらうようにするのも一つの手段といえます。
信頼のできる人に相談する
コミュニケーション障害を抱えている人にとって、信頼のできる人はすごく頼りになる存在であると思います。
一人で抱え込んでしまうよりも、まずは、自分自身の特性を理解してくれている人に相談してみましょう。
そうすることで、今後どういう風に動いていけばよいのかアドバイスをもらえるでしょう。
また、嫌がっていることを代わりに当人に伝えてもらえたり、現状を改善するために、何かしらの協力を仰ぐことが可能になります。
社内の相談窓口に相談する
上記の方法を試しても現状が改善しなかった場合には、社内の相談窓口に相談しましょう。
一人で相談に行くのが困難な場合には、信頼のできる人と一緒に相談に行きましょう。
伝えきれなかった分を補ってもらうなど、協力を仰ぐとスムーズに話をすることが可能になります。
また、その際に、ハラスメントの証拠(ハラスメント行為を日時と一緒に日記に残しておく、音声を録音するなど)も一緒に提示して伝えましょう。
そのほうがより早く対応してもらいやすくなるので、証拠集めにも協力してもらうと良いでしょう。
コミュニケーション障害といっても、性格的な面で人と話すのが苦手だったり、空気を読んで話すことが苦手な人もいますよね。
今回は、何かしらの疾病がある場合の人向けの内容になりました。
しかし、そういった事情がない場合においても、相手が何が苦手なのかを聞き取って理解しようとすることが大切です。
相手のありのままを受け止めた上で、どう対応すればよいのかを考えて行動することが一番重要だと思います。
あとは、自分自身が客観的に見たものだけで相手を判断して、こうだと決めつけて対応することを各々が気を付けるようになると、こういったハラスメント問題も減ってくるのかもしれませんね。